季刊誌/冬の部「Libro vol.70」公開
まだあんまり寒くないねと言っている間に年末が来てしまいました。 いつの間にか白くなった息に驚きつつ、今年は色々あったなぁとつい考えてしまいます。 感染症対策のため、今年は顔を突き合わせる形の行事を減らし、オンラインで様々なイベントを開催してきましたが、その甲斐あってか今年も...
まだあんまり寒くないねと言っている間に年末が来てしまいました。 いつの間にか白くなった息に驚きつつ、今年は色々あったなぁとつい考えてしまいます。 感染症対策のため、今年は顔を突き合わせる形の行事を減らし、オンラインで様々なイベントを開催してきましたが、その甲斐あってか今年も...
みぞれと血 汽包 透明なグラスにみぞれは音もなく沈み、凍空の下。氷の熱が指先を侵して、焼け付く痛み。ユキの体は彼女の意識から離れたところで独りでに震える。目は安堵に似た仄かな光を宿して、唇は淡い紅を残す。 灰色の街にみぞれが降る。みぞれが降る日、彼女は庭へ出る。凍える雨風に...
夜明けの朝食 大保江 冬麗 「また新しい彼氏できたの?」 穏やかな音楽が流れる、カジュアルな内装の喫茶店。大学が始まって以来、私にとって唯一の友人であったサチは運ばれてきたモンブランを食べながら、呆れた口調で言った。 「そう。また告白されたから」...
たった3時間だけの魔法 佳河健史 1 〝夢の王国〟を取り囲むようにモノレールは廻っている。進む方向に顔を向けるように立つと、ちょうど私の左側と右側で別の世界が広がる。その境界を、夢の王国の国境をアピールするかのように、モノレールは静かに進んでいく。...
ペロちゃんキャンディーのイチゴ味はいつも余る あさぎ お菓子入れの中を覗き見る。真っ赤な毒々しい色が四本、居場所を奪い合うようにして収まっている。私はイチゴ味が苦手だ。毒々しい色も苦手だし、イチゴの嫌な部分だけを取り出したような甘さに辟易する。本当は、ブドウかリンゴか、オレ...
HANABI 佐藤ビオラ 1 弾けた火花の光のせいで、こんな自分までもが煌めいていたのかも知れない。 まばゆい幻影は、あの夏へと導いてゆく。今もまた夜空に消える花火を見る。そのたび、過ぎ去った熱源の中に僕はいるのだ。初めて来た場所、初めて向き合った人の面影を、あの優しい光と...
私は美少女GT 美少女(わたし) 美少女(わたし)を美少女(わたし)とするのは紛れもない美少女(わたし)自身 美少女(わたし)であることを決めるのは美少女(わたし) 美少女(わたし)は他の何者かに認められて美少女(わたし)になるわけではありません...
鳥兜 島綿秋 「あなた、どの型にしますか」 シリコンかなにかで作られた顔が、「慈悲」と名付けられるであろう表情を私に向けた。柔らかな低音が、机の上に置いているパンフレットに落ちていく。 「……ヒト型。そうじゃなくっても、五本指のがいいです」...
やさしさ 朝喜 君は優しいから 言葉を選ぶ 君は優しいから 自分が犠牲になる たとえ相手が低能でもクズでも 自分が我慢すればといつも言う とても美しい考え方だね おめでとう、世界は今日も美しい おめでとう、世界は今日も麗らか オメデトウ、オメデトウ...
胡蝶の夢 朝喜 胡蝶の夢 胡蝶の夢 私にあの夢の続きを見させてください 楽しいお茶会 森の中で遺跡探検 銀河の海水浴 小鳥とデュエット どれもお気に入りの夢なのです 覚めてしまうには惜しい夢ばかりでした 上司と宴会 人間林で家探し 思考の海くらげ 怒れる客と二重奏...
磨り減るヒト オゼキ シンヤ 真っ青なコート紙に巻かれた万華鏡を覗いて、頭で唱える。朝、回れ! 昼、回れ! 夜、回れ! 回れ回れまわれ…… 回った。世界は回転した。さっきまで、朝の情報番組で、未成年による非行に対して、作られた暗い顔で持論を展開していたコメンテーターは、笑顔...
チェックのスカート カンザキ 夢を見た。わたしが女になる夢。普通に街でチェックのスカートを履いている夢。 吹奏楽部の朝練はいつも億劫だ。鏡の前で自分の顔を見て嫌になる。どうしてわたしは男に生まれてきたのだろうか。右の頬にできたニキビがほんのり赤く充血しているのがわかった。...
花鳥種の宴 S氏 この町は十年に一度、空から音楽が降ることで知られている。楽器でも声でもない音が旋律と共に町を覆う。人々はその日山の淵に太陽が触れてから見えなくなるまでの数刻、正装を身にまとい山の方角に祈りを捧げる。この音楽を奏でるものに対する崇拝として古からの伝統だが、誰...
花は永遠の夢をみるか 鎖骨 『わたしの人生は夢だった けれど 夜の闇へ 白昼の彼方へ 幻のように あるいは無となって 希望が消え去ったからといって 意味のない夢だったとはいえない わたしたちが見たり感じたりしてることも 所詮は夢のまた夢なのだから』...
「鏡面」 一 遼次郎 この世浮世や幾年か 行きたや見たし白鷺に 烏屈みて飛び込まん 烏屈みて飛び込まん この世憂世や生き地獄 行きたや見たし白鷺の 烏自ら飛び込まん 烏自ら飛び込まん 一 青と白のカラーリングの列車が、屋根のないプラットフォームに滑り込む。...
あしたに消える風の中 田川 一人 人は、見たいものを見たいように見る。同じように我々は見せたいものを見せたいように見せる。それが別人のごとく着飾った自分の姿だろうと本当は存在しない虚構だろうと関係なく、科学技術はその欲望を叶えてみせた。...
未来と希望 白龍 その日は寝覚めが酷く悪かった。体が鉛のように重く、思考が霧散していく。脳の中で髄液があふれ出す感覚が広がり、ドロリとした液体で脳内が満たされる。次第に現実と夢との境界が曖昧になっていき、およそ思考と呼べるものは彼方へと消えていった。...
沈み、溺れる 大峰真霧 私も彼女も、互いの名前すら知らない。 それでもなぜか、私たちはお互いに解りあっている。 生ぬるい海水が足指の間を浸し、波にさらわれた砂に足を埋める。濡れた砂を踏みしめて、重い水の中へ。夏服のスカートの裾は海面を撫でて、やがて水に蝕まれて沈んでいく。水...
どうも。大保江冬麗です。そろそろ? クリスマスですね(もう過ぎてるかもしれませんが)。ということで毎年恒例? に、していくつもりのクリスマス作品を掲載させていただきました。 今回こそハッピーエンドです! ね? 幸せになって終わってますから!...
以下は雰囲気を考慮して本編に書かなかった作中の設定です。 【花鳥種】(青年) 感情を多く持つ種族。番になる相手にだけ感情を与えることができる。十年に一度誕生する希少種で、感情が多い代わりに体の一部が欠けている場合が多い。 【吟遊士】(碧の吟遊士)...