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編集後記 編集局員

  • ritspen
  • 2020年12月30日
  • 読了時間: 5分

こんばんは。「夜明けの朝食」の校正をさせていただいた者です。校正というのはいい仕事で、自分に近しい年代の書きたてホヤホヤの作品を読ませてもらえて刺激になります。作品って、その人の頭の中身ですからね。

まあ、刺激にもいろんな種類があって、感銘とか共感とかがポジティブな刺激の典型なのでしょうが、今回私が受けた刺激は「不快感」でした。だから、本来は「ありがとうございました」とでも書いて終わらせるべき編集後記でこうして長々文章を書く気になったわけです。ここから先はネタバレなので、本編読了後にお読みください。

私がしたいのは、「自分が欲しいものがちゃんと認識できてないとそれは手に入らないし、何が欲しいかすらわかってないのに、周りの人に『なんで私の欲しいものをくれないの!』って当たり散らすのは幼稚だよね」って話です。

大学生の「私」は、いつも他人に求められるほどの美人です。だからしょっちゅう男たちに告白されるし、アルバイト先では店主と不倫しています。そういう彼女は、他人に愛してほしいクセに「恋愛なんてくだらない」「自分を求めてくる人間は、みんな自分をセックスか身分の証明の道具としてしか見ていない」と馬鹿にします。自分が一番に他者に愛情を求め続けているくせに、それだからあらゆる男と付き合ってみようとするくせにね。

さて、彼女は最終的に、最初から家族として触れ合えそうな男と一緒になりたいと望みます。彼女はこう考えます。自分は恋愛に誠実になれなかった。なぜなら、自分はずっと恋愛相手に誠実に取り扱われてこなかったから(!) ここまでくると噴飯モノです。そもそもが、既婚者の男と付き合っておいて「愛してほしかった」? 自分で付き合うことを了承しておきながら、「パチカス」と罵り不倫のスパイス程度にしか男を取り扱わなかったのは誰だ? 他人を侮辱しておきながら、自分は正当な取り扱いを受けられると思っていたのか? というか、愛してほしいなら「私をこのような仕方で愛して」と言えばいいだけではないか。相手の愛し方が気に入らないなら、それが愛でないと非難するなら、説得するかそもそも付き合わなければいいだけでは?

自分がどのように取り扱われたいか表明したことがないのに、そのように取り扱われることに期待するのは赤ん坊と一緒です。「おぎゃあ」と泣けば、よしよしと両親がやってきてオムツを取り替えたりお乳をくれたりすることを期待する赤ん坊と一緒。だから、究極的に言えば、「私」が求めているのは家族愛の中でもとりわけ父性愛なのです。年上の既婚者と不倫しているのは、このように解釈できるでしょう。このような態度は、一般的な表現で「甘え」と呼びます。彼女はずっと言い訳をしているだけです。自分が正しく他者を愛せないし慮れないから、自分が対価として正当なものを差し出せていないから、道具扱いされているだけ。自分が何を求めているかわかっていないから、こういう物言いになる。

しかも、最初から家族愛、父性愛を示してくれそうな男と一緒になろうとするときには、一言も話してないのにいきなりわかりあったような顔をしています。

いやいや、ちょっと待て。お前さんはニュータイプか? 誤解なくわかりあえる人の可能性か? この男がどう思ってるか、一言でも聞いたのか? 友人程度の付き合いを求めてる相手に、なに最初から家族愛を求めに行ってるんだ? どうやってこの男がそういう付き合いを求めてるって確信した? どうして自分の願望を理解してくれてるって前提してる? なんで相互理解のための努力を一ミリもしない?

というか、相手から家族愛を求めるくせに、自分は松本にどんな愛情を与えたんだ? どういう風に松本を愛した? 何を対価に差し出した? もしかして「自分と一緒にいられるだけで幸せ」とでも言ってほしいのか? 残念だけど無償の愛なんて存在しないぞ?

…………と、こんな感じです。他人を道具としてしか見做さないで没交渉にしている人間が、どうして他人の道具扱いを糾弾できるのでしょう。そんなに家族愛とやらが欲しかったなら、家族愛をくれそうな男を自分から口説きにいけばよかったのです。どう考えても愛してくれない不倫相手と付き合わないで、セックスしか興味のなさそうな男を自分好みでカスタマイズすればよかったのです。そういう風にしないのは、彼女がありえないほどの自己中心主義者で、他人を無意識に見下して自分の願望の道具程度にしか考えていないからです。他人の自我を想定しないからです。自分を変えることをしないで、他人に変わってほしいとばかりねだっているからです。自分の肉体に価値があり、その価値のためなら他人が何でもすると驕り高ぶっているからです。

たとえフィクションであっても、こういう人間を見ると「機動戦士ガンダム00」のセカンドシーズンで、王留美の乗った無防備なシャトルにGNハンドガンを連射したネーナ・トリニティみたいになってしまいます。「なんでも持ってるクセに、もっともっとって欲しがって……。アタシ、アンタが大嫌い」。

まあ、こういうメンヘラの女の子が誰彼構わずオフパコしたり、「理解のある彼くん」が現れてケロッとまともになっちゃったりするのは現実でもよくあることだし、こういう女性はTwitterでちょっとメンヘラ界隈を覗けばいくらでも出てきます。だからある意味リアルだし、心情描写のリアリティとしては非常にクオリティが高いと思います。恐ろしく正確なメンヘラ描写……俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。そのリアリティの高さが、不愉快になった一番の理由なんですけど。

というわけで、一行でまとめると「作品の心情描写はリアリティに満ちていて素晴らしいけど、主人公が典型的なメンヘラすぎる」というわけですね。書評じゃなくて二千文字超えのお気持ち大爆発でした。

適当なオチが付いたところで、筆をおきます。編集後記ってこれでいいんでしょうか?

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