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『巻頭インタビュー「アイドルとして」』 鎖骨

  • ritspen
  • 2021年3月20日
  • 読了時間: 11分

巻頭インタビュー「アイドルとして」     鎖骨

和服姿に身を包んで梅林の中で静かにたたずみ、幽玄を体現するかのような永江拡樹。

「儚げで何処かに行ってしまいそうな感じで」とスタッフから告げられ撮影に入った途端、撮影前にみせた人懐っこい姿とは打って変わってかのように雰囲気が変貌する。そのさまに、彼の表現者としてのポテンシャルをみた。

アイドルグループのメンバーとしてデビューして十二年。グループ解散後もソロアイドルとして活動を続け、今もなお第一線で活躍する永江を“ミスターアイドル”と呼ぶ声も少なくない。そんな彼が今年六月に公開される映画『存在の証明』で演じるのは、孤独を抱えるマッドサイエンティストだ。本作品は東幸子作のベストセラー小説が原作。長きにわたって人気の作品が映画化されるというニュースは、ファンの間でたちまち話題を呼んだ。

「原作の小説をはじめて読んだのは高校生の頃。それ以来ずっと心に残っている作品なので、今回自分が主人公のスグリを演じることになって本当に嬉しかったです。同時に、すでにたくさんの反響をいただいてると聞いて、身が引き締まる思いがしました」

物語は、才能がありながらも日の目をみることができずにいた天才科学者・スグリの独白調で進んでいく。ある出来事を発端にマッドサイエンティストとなり、自身の欲望のために狂っていく彼の姿を百八十分にわたって丁寧に描く長篇作だ。

「孤独を嫌うけれど孤独のなかが一番生きやすい人、というのがずっと僕がスグリに抱いていた印象。台本をいただいたとき、どうやって彼を演じていこうかとても悩みました。監督の利田健一さんとも相談をしつつ、最終的にはこの映画のなかで生きるスグリを演じられたと思います」

自身にとっても思い入れのある作品への出演に嬉しさを感じた一方で、当初は自身の演じる役のキャラクターに戸惑ったという。

「ありがたいことにこれまでも様々な役をいただいてきましたが、今回のスグリのような常に悲嘆をまとった感じのキャラクターははじめてで。お話をいただいたときは何度も役名を確認しました。『本当にこの役?』って(笑)でも、そういった役も演じられるだろうと思っていただける人間に成長できたという事なのかなと思うととても嬉しいですね」

永江が映画に出演するのは、『シンデレラボーイ~promise to you~』(‘17)以来、約四年ぶり。久しぶりの映画撮影に、なにを感じたのだろうか。

「久しぶりに映画に出させてもらって思うことは、撮影の現場は楽しいなということ。最近は事務所の後輩の育成にも携わることが多く、僕自身の活動はステージでの仕事以外あまりなかったんです。もちろんそれらも大好きで大切な仕事ですし楽しんでやらせてもらっていますが、撮影の現場で感じる楽しさはまた別ですね。長い期間をかけて監督をはじめ大勢の人と一つの作品を作っていく面白さを感じています。他にも、これまでお会いしたことのなかった役者さんとお話できたのも楽しかったですね。今回が初めましてという方には自分よりも年下の方が多く、なかには僕に相談をしに来てくれる子もいて。自分もそういう歳になったんだなあと実感しました。共演者の方から刺激をたくさん貰って、自分のお芝居にそれを還元できたのではと思っています」

初共演のキャスト陣の中で、永江が特に刺激を受けたのは作中でスグリの弟役を演じた寺木祐基だという。

「祐基くんは、子役出身だからなのか、若いのになんとなく玄人のような雰囲気がある面白い子。どうしてこのセリフをいうのか、なぜここでこう動くのかということを考えながら演技を作っていく姿は凄いなと思ったし、とても勉強になりました。撮影現場では何回も僕のところにやって来てくれて、二人での掛け合いのシーンの相談をしたのが印象に残っています。僕たちの役の間柄が兄弟だったので、撮影の合間もよく話をしたり一緒に食事をしたりして親しい距離感を作っていきました」

ロケ地の一つである京都には縁もある。

「京都で思い出すのは、何と言っても今回も共演している柳俊之くんと共演した舞台『京都浅葱恋模様~新選組異聞~』(‘13)。初めての舞台作品への出演で、右も左も分からなかった当時の僕に一から様々なことを教えてくれたのが柳くんなんです。彼とは同い年ですが常に先を行く憧れの先輩のような、でも何でも話して分かりあっていける親友のような、不思議な関係性です。僕たちが演じていた役が関係性の深い役だったこともあり、公演中は常に一緒にいた記憶があります。休演日に二人でショッピングに行ったり、地方公演では観光をしたり……普段僕は共演者の方と距離を詰めていくことが苦手なんですけど、柳くんは別でしたね。スッと隣に来てくれるし、行ける。柳くんとはプライベートで遊びにいくような関係になりました」

共演作も多く、気心の知れた永江と柳。永江から見た柳とは?

「やっぱり頼りになる存在ですね。共演作も多くて正直に意見を言い合える仲でもありますし、柳くんの発想はとてもクリエイティブなので意見の交換もとても楽しいです。僕の投げたものをしっかりとキャッチしてくれて、かつそれを想像していなかった感じに投げ返してくれる。それがとっても面白いんです。普段は活躍の場が違うので、こうした機会に一緒にお仕事ができるのは本当に幸せです」

映画への出演は約四年ぶりの永江だが、昨年の九月にはソロでの活動を始めてから三枚目のアルバムである『links』をリリース。八月には同タイトルの全国ツアーを開催した。

「応援してくださるファンのみなさんと久しぶりに会うことができた今回の全国ツアーでは、会場が一体になることではじめて完成するようライブならではの空気感が大好きだな、尊いものだなと実感しました。テレビや雑誌を通してのお仕事でファンのみなさんに僕の活動をお届けできるのも、場所や時間の制限があまりないという利点があるので好きなんですが、ライブの楽しさはまた別ですね。ライブで僕のパフォーマンスを見て笑顔になってくれたり、時には涙してくれたりする姿を見ると、アイドルとしてこんなに嬉しいことってないなと思います」

アイドル生活も十二年。振り返ってみてターニングポイントとなったのはいつ?

「二つあって、一つめは『week』が解散したときです。あの時は本当に急に何もかもが変わっていて、僕はただあたふたしていました。解散が決まって、何が何だかって気持ちでしたね。僕にとってグループは大切な居場所だったので。居場所を失うって本当に不安になる。そして、不安な状態のままこれからについて考えなくてはならない。それもまたつらいなあって当時は思ってました。解散と同時にアイドルもやめて、タレントや俳優として芸能界に残るか、芸能以外の道に進むか、それともひとりでアイドルを続けるか。どれを選べばいいんだろうって少しだけ悩んで、アイドルで居続けることを選びました。間違いなくターニングポイントですね」

 二つめは?

「二つめは、ソロになって初めての全国ツアーの最終日。このツアーはかなりわがままを言わせてもらい、衣装や演出、グッズデザイン、セットリストなど、様々なことに僕の意見を取り入れていただきました。それは全て、僕というアイドルを見に来てくれた方全員に、少しでも楽しんでもらいたい、来てよかったなと思いながら会場から出ていって欲しいと思ったからです。言うなれば、みんなが楽しんでくれたら僕も嬉しいし楽しいって気持ちだったんです。でも、いざツアーが始まってステージに上がっても、楽しいと思うよりも『楽しんでもらえてるかな? 大丈夫かな?』という不安が浮かぶことの方が多くて。なんでなんだろう、楽しいはずなのにって思いました。でもその時、ちょうどweekのリーダーだったあーさん(鈴木彰)から連絡が来たんです。『どう? 楽しい!!!! って思いながらやってる?』って。その時に、ああそっか、自分から楽しもうって思ってないから楽しくないんだって気付きました。視点が変わったというか。そこからは自分がまずは楽しんで、その姿を見た人がつられて楽しくなっちゃう、みたいなのを目指すようになりましたね。そこからの公演はもちろん不安もありましたがそれすら心から楽しくて。最終日にステージの真ん中から見えた光景は、今でも忘れられません。あのときの光景を思い出すたびに、『人を楽しませるにはまず自分から』という意識を持つようになりました」

現在は自身のアイドルとしての活動だけでなく、所属事務所の後輩アイドルの育成にも力を入れている永江。その意図とは?

「アイドルとしてお仕事をしていく中で、常に『アイドル・永江拡樹』にできることはなんだろうと考えながら過ごしてきました。ステージで最高のパフォーマンスお届けすることや楽曲を通して誰かに幸せを感じていただくことがそれだと思ってずっと活動をしてきましたが、他にもできることがあるんじゃないかともずっと思っていて。そのひとつが後輩の育成でした。僕のことをアイドルだと思っていてくれる人がいる限り、僕はアイドルでいたいと思っています。けれど、いつか僕に求められるものが『アイドル』ではなくなる日が来るのかもしれない。そのときまでに、僕がアイドルとして活動してきたなかで得たことをこれから活躍していく子たちに伝えていきたくて始めたんです。具体的には事務所の後輩グループの子たちにレッスンをしたり、時にはプレイングマネージャーとしてライブに参加したりもしています」

自分自身の成長ではなく、アイドル業界の発展を願ってということ?

「あー、そうかもしれないですね。そうなのかな? (笑)。後輩の子たちとのかかわりを経て得られたものもたくさんあるので一言でそうだと言い切れないですけどね。単純に、アイドルが大好きなんですよ(笑)」

そう言って笑う永江の瞳には、強い意志を感じる。そこまで彼が「アイドル」にこだわるのはなぜか?

「僕は物心がついてすぐの頃からアイドルに憧れていましたし、アイドルになれたらなってずっと思っていました。嬉しいことに『アイドルになりたい』という夢がかなって、もう随分と長い間活動をさせてもらっていますが、今もアイドルという存在、アイドルという生き方が好きなのは変わりません。むしろその気持ちは増していっているかも。だからじゃないですかね? もう僕のなかでは生きることとアイドルは切り離せないくらい大事なものになっている気がします」

アイドルを愛しアイドルとして生き続けている永江。彼がアイドルとして大切にしていることはなにか聞いてみた。

「たくさんありますよ。体力をつけるとか、肌荒れしないようにきちんとスキンケアをするとか。細かいことをあげるときりがないですね。元々細かいことが気になってしまう性格なのもあるんでしょうけど、アイドルは気にかけなくてはならないこと、大切にしなくてはいけないことが多いんじゃないかと思います。そうなる所以のひとつはいただくお仕事の幅広さでしょうね。とにかく、求められるものに応えようとすればおのずと大切にしていきたいことは増えていきます。ひとつこれだ! というのをあげるなら……僕のなかで『アイドルとは』みたいのがあるんですけど、少しでもそれに近づけているかどうかはどの現場でもずっと大切にしていることですね」

永江の言う「アイドル」とは?

「『アイドルという生き物であること』ですね。目指すべき理想だと信じています。アイドルは本来、『偶像』という意味の言葉。簡単に言えば人ではないものってことですね。常にキラキラしていて、愛される存在であり、見た人の心を豊かにする生き物が『アイドル』だと思っています。でも、当たり前だけど僕は人間です。それでも僕のことを見てくれている人には、いつ僕を見てもアイドルだな、『アイドル・永江拡樹』だなと感じていただけるように日頃から生活しようと心掛けています。お客さんの前で起こることこそが真実、それがエンターテインメントの真髄であり本質ですからね。ずっとこの理想を貫きたいなと思っています」

アイドルであることへのこだわりを語る永江。今後の展望は?

「先ずはお仕事の幅を広げること。『永江なら間違いない』って言われるようになりたいですね。そして、成長を続けていきたいです。アイドルになって十二年。当時二十四歳だった僕も三十六歳になりました。若いことそのものは武器ではないですけど、若いからこそ持てた武器ってあったんじゃないかなと当時を振り返って思います。その武器はもう僕のもとにはないですけど、当時なら手に余していただろうものが、今の僕にはしっくりくる。そういったものをこれからもっと増やしていきたいです」

最後に、ファンの方に一言。

「いつも応援ありがとうございます。僕は僕のことが大好きですし、それはこれからもきっと変わりません。でもそれはみなさんが、僕が自分のことを愛していられるようにしてくれたからこそ。そのみなさんの優しさが大好きです。本当にありがとうございます」

永江拡樹(ながえ ひろき)

一九八五年生まれ。二〇〇九年にアイドルグループ「week」としてデビュー。二〇一五年に解散。その後はソロアイドルとして活動を続ける。映画「存在の証明」は六月に全国ロードショー。

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